東伊豆にある稲取温泉では、ひなまつりに「雛のつるし飾り」を飾る風習があります。江戸時代では、ごく一部の裕福な家庭はお雛様を購入できましたが、一般的家庭では難しかったため、せめてものかわりにということで始まったと言われています。娘や孫の初節句の祝いや健やかな成長を願いながら、食べ物や動物などを布で形取り、中に綿を詰め、布を縫い合わせます。一針一針願いをこめて手作りしていきます。全体としては「衣食住に困らないように」というものですが、例えば、「這い子人形(はいこにんぎょう)」は赤ちゃんがハイハイをして元気に育つように、「犬」はお産が軽いのにちなんで安産、子宝に恵まれる、「いちご」は赤いので厄除けに、「花」は華やかで可愛らしく、「羽子板」は苦難を跳ね飛ばすといったように、様々な願いが込められています。
戦後一時途絶えかけましたが、平成になり、地元の稲取婦人会の活動として復活を果たしました。手芸クラブのように、皆さんで集まり、おしゃべりしながら縫うことは、今も昔も憩いの場で、幸せな時間です。これらの作品は、平成10年度より稲取温泉旅館協同組合の春のイベントとして、文化公園雛の館などで展示されるようになりました。ぜひ、伝統の手作りの品を見にお出かけになってみませんか?