福島の伝統工芸品・会津漆器と現代を繋ぐ【漆とロック】
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会津漆器とは?
会津の地に本格的に漆器生産が根付いたのは、安土桃山時代、豊臣秀吉の命を受けて会津の領主となった蒲生氏郷公が、産業として漆工芸を奨励したことによるとされています。氏郷公は、前の領地であった日野(滋賀県)から木地師や塗師を呼び寄せて、漆工技術を伝承させました。
これによって会津漆器は飛躍的な進歩を遂げ、漆の栽培や木地などの素材の生産から分業による漆器づくりまでを一貫して手がける一大産地となっていったのです。
周辺の山々に自生するトチ、ケヤキ、ホウ等の木材を器の素地として用い、そこに漆を何度も塗り重ねて仕上げられる会津漆器は、日常使いしやすい温もりが特徴です。
会津の地で活動する若きコミュニケーター
その後、現在の会社を起業し、2015年には循環型の生き方を叶える漆器「めぐる」を発表。
漆の器が持つ心地よい肌触りや口当たり、そして抱き上げたくなる優しいかたちを追求するため、“触覚のアドバイザー”として、暗闇のソーシャル・エンターテイメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」でアテンドとして活躍する全盲の方たちに商品開発に加わっていただき創作活動を行っています。
禅の修行で使われる器に範を取った三つ組椀<水平><日月>や漆のさじ<めぐるの匙>を中心に、平皿や酒器・折敷・蓋物椀など、品良くシンプルで使いやすい食器を展開しています。2015年・2020年グッドデザイン賞、2015年ウッドデザイン賞を受賞。
会津漆器に込める想い
漆器の素材や製法のこと、そして会津漆器に魅せられた理由などについて、貝沼さんにお話をお伺いしました。
―漆とは、そもそも日本人にとってはどのような存在だったのでしょうか?
「漆」という文字は、樹木の中で唯一、木偏ではなくさんずいが使われますよね。つくりの部分の「桼」は木に傷を付けて点々と汁が滴る様子で、これ自体が漆液を採る情景を表しているそうです。昔から人々にとって漆は、その樹液こそが大切なものだったことが伺われます。漆と日本人の付き合いは約1万年の縄文時代に遡るんですよ。
―貝沼さんにとって、漆器の魅力とはなんでしょうか?
―会津漆器の特徴や魅力はなんですか?
そして、会津漆器は、気品と奥ゆかしさを兼ね備えた漆器だと思います。雪国の城下町らしく、過度に華やかではない装飾で、会津人の気質が反映されていると感じています。
また、会津漆器は「花塗り」と言って、最後の仕上げ塗りをしたら、そのままふわっと乾かします。その後でピカッと研ぎ上げたりしないので、マット感のある優しい肌合いになります。使っていくと、段々と自然に艶が増していく、「育っていく器」でもあります。
―貝沼さんは、そもそもどうして会津漆器に惹かれたのでしょうか?
その時に、時代に流されずに素材と向き合いひたむきにものづくりを続ける職人さんたちの姿に、信念に忠実な「ロックな魂」を感じたので、社名を「漆とロック」にしました。
―「漆とロック」には熱い想いが込められていたんですね。「漆とロック」の事業や取り組みについて教えてください。
もちろん、ものを作る、ものを使う、ということは人間の原点ですが、この百年ほど続いた大量生産・大量消費・大量廃棄型のものづくりは限界に来ており、自然の摂理を超えて無尽蔵にものを作り増やし続ける時代ではなくなっています。これまでの“ものが足りない”時代ではなく、人口が減り“ものが余っていく”時代の中で、どんなものづくりを目指していくのか。
漆器産業も、これまでは大量生産の波に飲み込まれてきた側面もありますが、むしろ日本の中で古来から続きてきたものづくりこそ、自然と共生する循環型のものづくりを取り戻していかなければいけないのではないかと考えています。本来、漆はその力を持っているわけですから。
そこで私たちの「めぐる」という漆器は、“適量・適速生産”を掲げ、年間1,000椀・年1回だけの予約生産というかたちを取っています。器の素地になるトチノキや上塗りで使う漆の液は、会津や東北の木こりさんや漆掻き職人さんから素性の分かるものを数年先の制作を見越しながら直接仕入れています。それをもとに毎年、冬の3ヶ月間だけ受注期間を設けて、ご予約いただいた皆さまの器をまとめて春から秋まで作っていきます。多すぎず少なすぎず、まとまった数を適切な時間をかけて最適な気候に応じて作ることで、国産の素材を有効に保護・活用でき、職人さんたちも安心してしっかりした制作ができ、確かな品質の漆器に仕上げることができます。
同時に「めぐる」では、お客さまにお待ちいただいている期間のことを“とつきとおか”と呼び、季節のお便りや動画で制作過程(ご自身の器が育っていく様子)をお伝えしています。そうしてお迎えいただいた器は、塗り直しや補修など、お直しの仕事を産地の若手の職人たちが担当し、世代を超えて長く使っていただけるものになります。さらに、器の売上の一部は会津での漆の木の植栽活動に寄付されます。「めぐる」という名前の通り、素材も作り手も使い手も、世代を超えて良い循環の中で育まれていくことを願った器です。
―漆の木を植える活動もしていらっしゃるんですね。
―最後に、皆さんにメッセージをお願いします。
人は一生のうちで8万回も食事をするそうです。これからどんな器と一緒に生きていきますか?