プロジェクト立ち上げ当時を知る社員が語る「走るレストラン」【TOHOKU EMOTION】

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「のってたのしい列車」とはJR東日本が運行している列車で、乗っている間に楽しい体験やサービスが受けられる、普段乗っている列車とはちょっと違う列車です。今回はその「のってたのしい列車」の中から「TOHOKU EMOTION」についてご紹介します。

「TOHOKU EMOTION」は主に週末、青森県と岩手県の海岸沿いを繋ぐ八戸線(八戸駅~久慈駅間)を走っています。「東北レストラン鉄道」と呼ばれるその車内では、東北の食材を使ったオリジナルメニュー、オープンキッチンで調理された出来立てのお料理、東北の伝統工芸品がモチーフとなった上質な空間を楽しむことが出来ます。
より東北の魅力に触れながら食べて、飲んで、楽しんでご乗車いただきたい!ということで、今回は「TOHOKU EMOTION」の運行に向けてプロジェクト立ち上げに関わっていた、工藤さんと新井さんにお伺いしました。
「TOHOKU EMOTION」だけでなく「のってたのしい列車」プロジェクト全体のお話もしていただいたので、ぜひお読みください!
「のってたのしい列車予約サイト」はこちら

目次

■「のってたのしい列車」プロジェクトの始まり
・「のってたのしい列車」プロジェクトの立ち上げ背景とは?
・アンパンマンやポケモンの力を借りて子供たちを元気づけたい!
・震災の影響は大きい

■TOHOKU EMOTIONが走る八戸線はどんな路線?

■TOHOKU EMOTIONがレストラン列車になるまで
・TOHOKU EMOTION出発当日は?
・洋野エモーションとは?
・最後に

「のってたのしい列車」プロジェクトの始まり

コンセプト作り担当 新井さん

新井さん(JR東日本びゅうツーリズム&セールス /インタビュー当時)

私は当時JR東日本本社の営業部というところで、「のってたのしい列車」をつくるプロジェクトに携わりました。部の中で、グループを横断するプロジェクトとして5人で組んだ中のリーダーでした。TOHOKU EMOTIONやPOKÉMON with YOU トレイン、SL銀河、後はTRAIN SUITE 四季島などに関わる仕事をしていました。全体のコンセプト作りや需要予測、客室等のレイアウトや運行計画、また車内オペレーションに関する検討・調整の他、販売方法、販売促進策の検討等、TOHOKU EMOTIONに関する様々なことをしていましたね。

現地の調整担当 工藤さん

工藤さん(新青森駅長/インタビュー当時)

私は震災復興のためにそういう楽しい列車を入れるという話がJR東日本本社からあり、盛岡支社の観光開発グループでプロジェクトが作られました。JR東日本本社に行き「のってたのしい列車」の導入説明を受け支社に戻り、地元での受け入れ態勢に携わったというのが始まりですね。私は盛岡支社内の調整や、沿線自治体へこういう列車を導入します、どのようなおもてなしをしていきましょうか?という調整をする役割でしたね。

「のってたのしい列車」プロジェクトの立ち上げ背景とは?

TOHOKU EMOTION 出発前の様子

新井さん

「のってたのしい列車」プロジェクトの立ち上げについて私が知っている限りでは、2011年の冬頃に議論がスタートしたようです。当時は、3月に発生した東日本大震災からの復興に向けて本社内で色々な議論がされていました。その中で、当時の社長から、JR東日本はこのままだと、将来、新幹線と首都圏の通勤輸送だけの会社になってしまう。東日本エリアの地域に生きる企業として、それじゃだめなんじゃないか。もっと乗ること自体が目的となるような列車を考えてほしいという課題がありました。震災があって、東北を中心とする被災地の復興に向け、観光の力で何をやっていくのか。そのためには、東京から人を呼べるような魅力のある列車をつくろうということですね。

アンパンマンやポケモンの力を借りて子供たちを元気づけたい!

海を見ながら食事

新井さん

私が2012年6月にプロジェクトに参加した頃には、既にいくつかののってたのしい列車の検討がスタートしていました。その中で最初に走り出したのはPOKÉMON with YOUトレインです。これは2012年3月頃、JR四国のアンパンマントロッコをお借りして被災エリアで走らせたところ、すごく子供たちに好評だったので、何かJR東日本の車両で出来ることがないかという話が出ていました。
JR東日本はもともとポケモンのスタンプラリーなど色々とやっていたこともあり、ポケモンとタイアップしてやろうという話になりました。
続いて検討が進んでいたのが、今のTOHOKU EMOTIONです。海の見える路線でレストランのように食事を食べられる列車をやろうと。そういうざっくりとしたコンセプトができていて、いろいろと始まっていたという感じです。

工藤さん

アンパンマン列車は沿線の子供たちを招待した試乗会を実施し、うちの宣伝チームが仕切ってやりました。アンパンマンは子供たちにかなり人気があり、喜んでいただいたという実感があります。東日本大震災で沈んでいる気持ちをワクワクさせるには、子供たちが元気にならないと駄目なのかなという気がしていてました。
POKÉMON with YOUトレインは2012年の12月に子供たちを招待したことから始まりました。一ノ関駅から気仙沼駅までの間で停車する駅にポケモンのオブジェや、記念スタンプを置いたりと様々な取り組みをしました。
我々も地元の人たちも、来たお客さまに市内を巡っていただきたいという気持ちもありました。当時は気仙沼もまだガレキがたくさん残っている状態でしたが、各地域の復興商店街を巡っていただきたく、5,6カ所ほど指定してポケモンのスタンプラリーもやりました。最後に駅に戻って観光協会の案内所にスタンプ台紙を出すと景品がもらえるというものです。今も続いているようで、もう間もなく今年で丸10年になりますね。

震災の影響は大きい

久慈駅では大漁旗で送り出してくれる

工藤さん

私は岩手県出身ですが、震災時はJR東日本本社にいるときで、震災の年の7月1日に地元に戻ってきました。帰って沿岸に行った時には4、5か月経ってもまだこんな状況なんだなというのを感じました。生で見て、やはり何か力になりたいと思ったのが一つです。
帰ってすぐ秋にSLを走らせることが決まっていたんです。D51-498機関車と古い客車を借りてきて一ノ関と北上間だったかな、秋に走らせました。SLを走らせると、やっぱり沿線でもお客さまがたくさん来て手を振ってくれました。そいういうのを見ると苦労はしましたけれども、やはりやって良かったなと思いました。
八戸駅での見送り
TOHOKU EMOTIONも八戸を出て有家海岸付近では、地元の皆さんが集まって手や大漁旗を振ってくれるんです。頑張って良かった、地元の人も喜んでくれているなというのが実感できてました。TOHOKU EMOTIONが長続きしているのも、地元の方々による歓迎のおもてなしがあるからこそだと思います。
きっと地元からの期待も大きいんですよね。砂浜には「JRありがとう」と、ドラム缶に書いて置いてありました。また、洋野町には潜水を学習する高校があり、そこの高校生が潜水服を着たまま手を振ってくれたりしました。その学校とか地元の自治体を回って感謝状もお渡しをして、こちらからも感謝の意を伝えましたね。

新井さん

私は震災の時はJR東日本大宮支社の営業部で働いていましたが、2011年8月頃に、被災地が本当にどうなっているのかを自分の目で確かめたいと思い、プライベートでレンタカーを借りて現地に行ったんです。今でも覚えていますが、最初に女川周辺に向かったのですが、女川の手前までの少し高いところは、もちろん地震の被害は大きいのですが、津波の影響は感じられない。それが女川駅が近づいていくと景色が全く別世界に変わってしまうような津波の跡があり、非常に衝撃的でした。
それから約1年後に本社に異動となりプロジェクトに参加したのですが、そういう光景を目の当たりにしていたので、被災地の復興に関わる仕事に携われたのは、自分としてはとてもやりがいを感じました。
TOHOKU EMOTIONが走る八戸線は、震災後、運転再開が結構早かったのです。その時、沿線地域の方がとても喜んでくれて感謝してくれているという話を聞いていたので、プロジェクトの議論をしているとき、何とか八戸線を走らせたい、というのはありましたよね。

TOHOKU EMOTIONが走る八戸線はどんな路線?

車窓から見える海

工藤さん

TOHOKU EMOTIONのシェフ選びは首都圏の制作会社が担当でしたが、首都圏でしか働いたことがない人はおそらく八戸線を知らない、乗ったこともない、と思います。なのでまずはその制作会社の人達やJR東日本本社の人に八戸線を知ってもらうということから始めました。しっかり八戸線を知っていただくこと、終点である久慈の魅力を知っていただくことに努めてきましたね。

TOHOKU EMOTIONで使っているメインの大皿があるのですが、実は久慈で焼いたものなんです。特注で作ってもらったのですが、私が久慈の焼き物をやっているところを知っていたのでそこを紹介させていただきました。東北に縁のあるいろいろな食器などを使っています。PRする皆さんも沿線のことを知らないとなかなかできないですよね。
また運転する八戸運輸区の皆さんに説明に行くと、いろいろな質問が飛び交いました。しかし最終的には我々の列車なんだ、これを売っていくのは現場の我々なんだという気持ちに、社員みんなが意思統一できたと思います。八戸運輸区の皆さんもここで徐行できないかとか、一旦停車できないかとか、様々な施策をあげてきてくれるんですよね。
揺れる列車のなかでも丁寧なサービスを受けられる
現場の皆さんも乗ったお客さまに八戸線のことを知っていただきたいということで、八戸運輸区の皆さんが八戸線の見どころマップを頑張って作って車内に置きました。後は八戸運輸区でも車掌と運転士は選抜してTOHOKU EMOTIONに乗るようにしたんです。TOHOKU EMOTIONのロゴのバッジを作り、乗る運転士、車掌はそのバッジを着けることで社員の意識向上にもなりました。八戸線って、列車の本数がすごく多いわけではないので、枕木もまだまだ当時は木製が多かったのですが、揺れを少なくするためにコンクリート製を増やしました。ポイントを通過するときは気をつけて、飲み物がこぼれないようにするとか、そういう努力もしていただきました。陰の努力も結構あったと思います。これで地元の人たちも社員もかなり一体感が生まれたんじゃないかなというのがありますね。

TOHOKU EMOTIONがレストラン列車になるまで

レストランへの入り口のような乗車口

新井さん

プロジェクトでは「乗ること自体が目的となるような列車」を作ることを考えていたわけですが、それまでにJR東日本にあるイベント列車は、「リゾートしらかみ」やSL、そしていわゆるお座敷列車等でした。一方九州では既に色々な観光列車が走っていて、車内で飲食が出来るものもありました。車内で景色を眺めながらご飯を食べるというのは、やはり楽しいですし、海を見ながらおいしいご飯を食べられたらいいよねという話があり、そのような列車を作ろうとなったんですね。
当時は、トランジットジェネラルオフィスさんというところがプロジェクトの総合プロデュースということで入っていました。もともとトランジットジェネラルオフィスさんは東京で話題のレストランとかカフェとかをプロデュースしているところで、そこと組み東京でも予約が取れないようなシェフの方に料理の監修をしていただこうと。そういうのが東北で走っているから、東京からわざわざ乗りに行こうみたいなことを目指そうとなりました。また、若い女性をターゲットにして鉄道の普段の旅とは、少し違う層を呼びたいというのもありました。
車両のデザインは、ちょうど北陸新幹線のE7系等のデザインを担当していただいていた、山形県出身の奥山清行さんにお願いしよう、そういったところから決まっていった感じですね。
TOHOKU EMOTIONのエクステリアデザインは「移動するレストラン」を描き出す大胆なデザインなのですが、私も最初にエクステリアデザインのイラストを見た時には、とてもびっくりしました。今までのお座敷列車とは違う、列車でこんなのありなのという感じで、本当に衝撃的でした。それが実物で本当にそのまま出来上がっちゃったからまたびっくりしたんですけど笑

工藤さん

いや、やはり斬新だなと思いましたよね。これまでにないデザインで、まさしくどこかの煉瓦造りのレストランのような雰囲気が感じられましたよ。実際に八戸駅で出発する時に入り口一つだけにして、赤じゅうたんと左右の上側にランプを飾りお客さまをお出迎えします。列車に乗るというよりは、これからレストランに入って食事を楽しむ雰囲気がすごくありますね。
最後の仕上げは車内で

新井さん

車両の改造を担当する人は「どうすればいいんだ、これは…」という感じで頭を抱えていたようではありますけどね笑
またコンセプトで「新しい東北を発見・体験」いただけるという事があるのですが、その点ではトランジットジェネラルオフィスさんのアイデアでいろいろなところに、お客さまのフックとなるような仕掛けをたくさん作るというがありました。車両のエクステリアデザインを奥山さんに依頼した事もそうですが、インテリアデザインを別な方にお願いしたり、ロゴデザインをまた別な方が担当し、その他にもパンフレットのイラストや車内の現代アート、そして車内で流す音楽があったりと様々な仕掛けがありました。そしてやはりライブキッチンですね。お客さまの目の前で調理する様子を見ていただく事で、お客さまには料理を味だけでなく、視覚でも楽しんでいただこう、ライブ感みたいなものを楽しんでいただこう、という事がありましたね。

TOHOKU EMOTION出発当日は?

当時の紹介冊子
プレス時に配布されたレコード

工藤さん

当日は現地で盛大な出発式の後方業務をしていました。
それまで色々と出発式をやりましたけれども、今までにない盛大な出発式だったと記憶しています。八戸駅の自由通路をお客さんが少し通れるぐらいだけ確保して出発式で占領した、盛大にやった記憶がありますね。列車をかたどったデコレーションケーキみたいなのもやりました。

新井さん

私もその日八戸駅にいました。
できるだけ記事に取り上げてもらおうと、こんな出発式見たことないというものでしたね。会場に巨大なシャンパンのボトルみたいなオブジェがあって、テープカットでくす玉を割るみたいな感じで、ボトルの先からクラッカーのように紙吹雪が飛び出すんです。
他にも、メディアの人にJR東日本がプレスするというと、普段は書面で記者の方に説明する、配るという事が多いのですが、最初のプレスではトランジットジェネラルオフィスさんが普段、JR東日本とはあまりお付き合いが無いようなメディアの方にもプレスを送りました。ただプレスリリースを送っただけでは絶対目に付かないから、車内で流すBGMを収録したレコードをリリースと一緒に送りました。後で記念に貰ったのですが、レコードプレーヤーを持っていないので、かけたことはないんですよね笑。同じ曲を収録したCDもあったので、そちらで聴きました。

洋野エモーションとは?

洋野エモーションのみなさま

工藤さん

TOHOKU EMOTIONって、八戸から出て久慈まで、久慈を折り返してまた八戸に戻ってくるんですが、途中に洋野町という町がありますがTOHOKU EMOTIONは止まらないんです。でも景色のいい海岸があるのが洋野町なんですよね。その洋野町の方々が一生懸命大漁旗とか横断幕とかを振っておもてなしをしてくれる。そこを徐行して、お客さまも列車の中から手を振り返してくれます。これを始めたのが神奈川県から震災復興のお手伝いで来た女性の方なんです。その方が発起人となって始めたんですが、それがまだまだずっと続いています。いつの間にか広まっていき地元の野球少年団とかも、土日に加わったりして。JR盛岡支社の野球部がじゃあって逆に感謝の気持ちで野球少年団に行って野球教室を開いたりしました。それから「おもてなしってこういうことなんだよ」ということで、新入社員が入ってくると、必ず洋野町の海岸のところに行き、地元の方々と一緒に手を振っておもてなしをするということを研修に取り入れたりしています。あと、車内に乗ったお客さまがそれに大変感動したらしく、自分の家に帰ってから何か復興に使ってください。すごい感激しましたということで、洋野町にお金を送ってきたらしいんです。そのお金を地元は何に使ったかというと、その人の名前を入れて、またのぼり旗を作っておもてなしに活用したんです。

新井さん

遠方から来たお客さまが、レストランの列車に乗って単においしかったねというだけじゃなくて、地元の人が列車に手を振ってくれて歓迎してくれている事が思い出に残ると思うんですよね。地域とのつながりを強く感じる列車です。

工藤さん

八戸線って、冬になると結構風が強いんです。時々列車も遅れる訳ですよ。やっぱり洋野エモーションでおもてなししていただいている方々が来ないなぁ来ないなぁって待ってるんですよね。
今日の運行はどうなってんのみたいに電話が掛かってくる時があります。そういうのも地元の方々に知ってもらうために、「どこトレ」というJR東日本が列車走行位置をお知らせするサービスにTOHOKU EMOTIONを入れてもらったんです。本来TOHOKU EMOTIONのような団体列車は「どこトレ」に登録しないのですけどね。「どこトレ」を見ていただければ、TOHOKU EMOTIONの遅れもすぐ分かりますと、地元の方にもお伝えしましたね。

最後に

久慈駅に停車中

新井さん

TOHOKU EMOTIONは色々な事が今までのJR東日本にはなかった列車ですし、車内でしっかりとした食事を出すというのも当時は北斗星とカシオペアしかなく、私自身、携わったことで本当にいろいろなことを勉強させてもらった列車です。個人的にはこんなに長く売れる列車になると思っていなかった…予想を超える列車になったのは、地域に愛されているからだと思います。それまで、どうやって一人でも多くのお客さまに列車に乗ってもらうかという仕事をやってきて、苦労もありましたけど、本当にTOHOKU EMOTIONがうまくいって地域の皆さんに愛される列車になってよかったです。

工藤さん

POKÉMON with YOUトレインやTOHOKU EMOTION、SL銀河と色々携わらせてもらい、様々な方と出会いましたし、諦めずに何でも挑戦しやり遂げることで、かなり自分にとっての財産になりました。今自分が現場長として若手を育てる上ですごいいい経験をさせてもらったことを若手に伝えていきたいと思っています。
SL銀河は釜石まで入れたわけですけども、以前釜石の駅長をやらせてもらったので、自分が入れた列車を現場で迎えるというのがこんなに感動するものなのかな、という風に思いましたね。だからSL銀河は来年でなくなるようですが、何かちょっとやっぱり寂しいですよね。
車窓を見ながらの食事は格別!

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「TOHOKU EMOTION」の他の魅力に迫った記事や、「フルーティアふくしま」の特集も公開中!
今後も「のってたのしい列車」に関する記事の掲載も予定です。ぜひお楽しみに!

※「TOHOKU EMOTION」は2022年4月より、Web予約限定となりました。
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